子ども世界の教育力

子育て

学校から帰ると私たちは、近所の友達やその兄弟と遊びました。
男の子は寒くなってくると、自然にコマやベーゴマ、メンコで遊ぶようになります。

私が2年生だったある日のこと、路上で2つ年上のラーメン屋さんのタカちゃんとメンコで勝負したことがありました。
これが私にとって、忘れられない苦く切ない思い出になっています。
勝負のルールは、至ってシンプルでした。
相手のメンコを裏返すか、地面と相手のメンコの間に自分のメンコが入り込めば、相手のメンコを自分のものにできます。
今では、相手のメンコを取り上げるやり方を決して奨励しませんが、当時はそれが普通のルールでした。
2つ年上で何をやっても強かったやんちゃなタカちゃんは、私の数十枚のメンコすべてを、勝負を通してあっさりと奪い取ってしまったのでした。
もちろん、メンコは、駄菓子屋さんで買ったものです。
また、時には家でその絵柄を眺めたり、枚数を確かめたりして、悦に入るような楽しみ方もしていました。
その大切な私のメンコが、タカちゃんにすべて取られてしまったのです
私は、ひどく悲しげな様子で家に帰ったのだと思います。

すると、あろうことか、私の母がタカちゃんの家に行き、「〇〇は、まだ小さいのだから、返してね」と言って、取られたメンコをすべて回収して、私に渡してきたのでした。
子ども心にも思いました。

「余計なことをしないでほしい・・・」

無事にメンコは、戻ってきました。
しかし翌日から、タカちゃんは私と遊んでくれなくなりました。
「いじめ」とか「仲間はずれ」ではありません。
タカちゃんは、そんなことをする子ではありません。
私に対して、気まずくなったのです。
そんな切ない出来事が、いつまでも忘れられませんでした。
しかし、それでも、私はメンコ遊びが大好きでした。
だから、冬になると毎日のようにメンコで遊んでいました。
友だちと遊んで帰宅した後、夕ご飯ができるまでの時間に、家の前でひとりでメンコをやっていました。
実は、メンコは、自分ひとりでも結構楽しく遊べます。
同じ状況の反復練習をしたり、時には敵の立場になってみたりして試行錯誤します。
地面に勢いよくメンコをたたきつける際に、指先が地面に接触して、血豆を作ることもしばしばありました。

そして、小学校6年生になると、私は学校でメンコが一番強い子になっていました。
しかし、私は、友だちからメンコを奪い取ることはしませんでした。
と言うよりは、取ることができませんでした。
タカちゃんとの出来事が忘れられなかったからです。
だから、友だちが道場破りのように、私にメンコの勝負に挑んできても、やっているうちに、「メンコ教室」のようになりました。
「こんな時は、どうする?」という調子で、攻略法を友だちに教えてあげるような遊び方しかできませんでした。
それでも、友だちは皆、満足して帰りました。

今思うと、私がメンコの強い男の子になれたのは、タカちゃんのおかげかもしれません。
学校の授業もお稽古事も、意図的に効率的に知識や技能や考え方を身に付けさせる有効な教育です。
しかし、子どもの遊びの中にも強い教育力があります。
無意図的で非効率的で、時には残酷かもしれない学びです。
しかし、生きる力を育む世界がそこに確かにあります。

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